引き続き読書記録です。
「この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた」タイトルの通り、パンデミックなり核戦争なり隕石の衝突なりの「大破局」のあと、どのように文明を復活させればよいか、について書かれた本です。「Dr.STONE」的な本と言えば伝わる人には伝わるでしょうか。
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扱う対象を目次から抜粋すると、
・農業
種とか農機具とか肥料とかをどうするか
・食料と衣服
食料保存とか糸とか布の作り方とか
・物質
石灰とか石鹸とか硫酸とかの役に立つ化学物質の作り方
・材料
粘土とか金属とかガラスとかの作り方
・医薬品
安全な出産とか診断とか抗生物質とか
・動力
風車とか水車とか発電とか
・輸送機関
バイオ燃料の内燃機関とか、馬車とか
・コミュニケーション
文字とか印刷とか電信とか無線とか
・応用科学
爆薬とか写真とかソーダ灰(炭酸ナトリウム)とかハーバーボッシュ法とか
・時間と場所
地球上での緯度経度、時刻を知る方法
・最大の発明
SI単位系と、科学の手法について
とまあこのように、大変多岐にわたる話題に言及した本です。
こうして読んでみると、「文明が失われても、こうやって再興すればいいんだな」と思えるよりむしろ、「この文明が失われたら、二度と再建できる気がしないな」と思えてきます。コンピュータとは言わない、100年ぐらい前の生活にたどり着くにしても、その前にやらなければいけないことが多すぎる。そして、そういうことを試みる人を食わせるためには相当の余剰の食糧が必要だし、そこまで食糧生産を増やすにもまた科学技術が必要でしょう(本書によれば、現在の先進国では『農業労働者は一人当たりおよそ五〇人分を養うのに充分な食糧を生産している。』とのこと)。そして、現在の文明を作り上げるのに大いに役立った化石燃料は、今の文明が失われた後に採掘できる範囲のものはとっくに採りつくしてしまっている。農業を行うために必要なリン鉱石も同じです(こっちは、現代でも枯渇していて、結構やばい)。文明ってすごい。
以下、いろいろ引用。
『現代の大規模農業は驚くほど成功しており、一〇〇年前にくらべて今日では、一エーカー当たり二倍から四倍もの食糧が生産されている。』
除草剤と農薬と化学肥料のおかげです。
『となるとある意味では、現代の農業は石油を食糧に──太陽光の力を若干取り入れつつ──変えるプロセスなのであり、実際に食べている食糧一カロリーのために、およそ一〇カロリー〔四一・八四ジュール〕分の化石燃料エネルギーを消費することになる。』
有事に備えて食糧自給率を上げないと、という話をよく聞きますが、石油がなければ食糧も作れない。
『意外なようだが、ヨーロッパでは一三〇〇年代なかばまで、ボタンという質素な用具は一般的ではなく、東洋の文化にいたっては一度もボタンを発展させたことはなかった。十六世紀にポルトガルの交易商人が身につけていたボタンを初めて見て、日本人はたいそう喜んだ。』
そうなんだ。
『たとえば、一九〇〇年代初期にテキサスで最初に商業的に利用された油田は、きわめて簡単に石油を確保できたので、エネルギー収支比は一〇〇に近い数値になる。採掘に使われたエネルギーの一〇〇倍のエネルギーを産出したのだ。今日、供給量が減るにつれて、残ったわずかな燃料を吸いだし(沖合の掘削装置の困難を含め)加工するにはますます多くの労力を費やさなければならず、エネルギー収支比は一〇前後にまで落ちている。』
「今の文明が失われた後に採掘できる範囲のものはとっくに採りつくしてしまっている」と書いたのは、こういうことです。石油はなくなるなくなるといいながらちっともなくならないじゃないか、と言う人がいますが、掘るのが難しくはなっている。
『完璧に滑らかな大型の窓ガラスは、溶融した錫を入れた槽のなかに注ぎ込んで製造する。』
知らんかった。
『今日、一人当たりに処方されるペニシリンの一日の服用量を生産するには、二〇〇〇リットルものカビ汁を加工しなければならない。』
火の鳥黎明編で、青カビ汁を飲ませて病人を助ける話がありますね。説明もついている。
1日分の(注射用の)ペニシリンを作るのに2000リットルのカビ汁が要るのなら、ヒナクは10000リットルのカビ汁を飲んだのかしら。
『アメリカに住む人は一人当たり実際には年間九万キロワット時ほどを消費し、かたやヨーロッパ人は四万キロワット時強を使っていることがわかる。』
アメリカ人エネルギー使いすぎだろ。
「おわりに」から。
『文明があらゆる基礎的なものを実際にどのように集め、つくっているのかを見ることで、現代の暮らしのなかで当たり前になっていたものを、本書のための調査のなかで僕が感謝したように、読者の方々もありがたく思うようになってくれたらと僕は期待している。』
そうですね。文明ありがたいです。
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