K.Maebashi's blog

まだだいぶ前の読書(代替医療解剖)


これも再読ですが、「代替医療解剖」。いわゆる普通の医学とは異なる、「代替医療」に関する本です。

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この本で扱っている代替医療は以下の通り。

・鍼
・ホメオパシー
・カイロプラクティック
・ハーブ療法

で、結論は、ハーブには多少の効果はあるかもしれないが(そして害もあるかもしれず、たいていもっといい通常医療の薬もある)、他は(ほぼ?)まったく効果なし、というものです。
日本人にはあまりなじみのないホメオパシーはともかく、「はり師」として国家資格なんかもあったりする「鍼」がまったく効果なし、というのは日本人にはちょっと衝撃的かもしれません。でも、「針が引っ込む偽鍼」等を使ってできるだけブラインドテストに近い状態(鍼の場合、完全な二重盲検はなかなか難しいとのこと。そりゃそうでしょう)にしたテストの結果とかが揃ってくると(以下、『』内は引用)、
『慢性的な緊張性頭痛、化学療法による吐き気、手術後の吐き気、偏頭痛の予防などの治療について、本物の鍼のほうが、偽鍼よりも効果があるという説得力のある根拠はただのひとつも得られなかったのである。』
『研究者たちが過去の臨床試験からバイアスを取り除けば取り除くほど、鍼はプラセボにすぎないことが示唆されるようになったのである。』
とのこと。ちなみにこれは灸でも同じです。

では日本の国家資格は何なんだ、詐欺か? と思うでしょうが――意図してやってるわけではないにせよ、結果的には詐欺になってしまっている、ということなのだと思います。

いやいや鍼灸には中国何千年の歴史があるだろう、それにそんなまったく効果がない、なんてことがあるわけないだろう、と思うかもしれません。しかし、何千年の歴史があったって、「適切な対照群を置いて、できるだけ二重盲検にした臨床試験の結果」がなければその治療法に効果があるとは言えません。以下引用。
『歴史家のデーヴィッド・ウットンは、『バッド・メディシン』という著書のなかで次のように述べた。「二千四百年間にわたり、患者たちは、医者は自分のためになることをしてくれているものと信じていた。そのうち二千三百年間は、患者たちは間違っていた」。言い換えると、人間の歴史のほとんどにおいて、大半の医療はほぼすべての病気について、効果のある治療ができなかったということだ。実際、かつての医者の大半は、私たちの先祖の病気を治すのではなく、むしろ害をなしていたのである。』

本書では、医療が害をなしていた例として、ジョージ・ワシントンに対する瀉血(血を抜くという治療法。かつては広く行われていた)が挙げられています。

また、対照群を置いたテストの例として、ジェイムズ・リンドによる壊血病の治療の例が挙げられています。壊血病というのは、ビタミンCの不足による病気で、昔の船乗りがよく苦しめられていた病気です。

『それから彼は、水兵たちを二人ずつ六組に分け、組ごとに異なる治療を施した。第一組には、一クォート(約一・一四リットル)のリンゴ果汁を与え、第二組には、硫酸塩のアルコール溶液を一日三回二十五滴ずつ与えた。第三組には、スプーン二杯の酢を一日三回与え、第四組には、毎日二分の一パイント(約二八〇㏄)の海水を与えた。第五組には、ニンニク、カラシ、ラディッシュ、ミルラの樹液からなる薬用ペーストを与え、第六組には、毎日オレンジ二個とレモン一個を与えた。また、病気にかかっても普通の海軍食を続けていた水兵のグループについても観察を続け、こちらは対照群としての役目を果たすことになった。』

リンドの時代にはビタミンCなど知られていなかったのですが、あてずっぽうでもたまたまオレンジとレモンを与えられていた組がいて、その組が劇的な回復を見せたことで、壊血病にはオレンジとレモンが効く、ということがわかったわけです。ところが運の悪いことに、リンドは大量の果汁を効率的に運ぶために果汁を煮詰める(今でいう濃縮果汁還元ですね)という方法を思いついてしまって、ご存じの通りビタミンCは熱で壊れるので、いざ大々的に試してみたらうまくいかず信用を落としてしまった、というオチがつくのですけれど。

その他、小ネタというか。

鍼は20世紀に入るころには中国でも割とすたれていたのですが、毛沢東が復活させます。
『毛沢東主席は、中国伝統医療を復活させるべく計画を練ったが、その計画には鍼だけでなく、薬草を用いる漢方や、その他の伝統療法も含まれていた。毛沢東の動機は、ひとつにはイデオロギー的なものだった。中国の伝統医療を復活させることにより、国家としての誇りを高めようとしたのである。しかしそれだけでなく、彼は必要にも迫られていた。都会であれ農村地帯であれ、人民が手頃な料金で医療を受けられるようにするという公約を果たすためには、伝統的な医者、いわゆる「はだしの医者」のネットワークを生かすしかなかった。毛沢東にとって、大衆を満足させることさえできれば、中国伝統医療に効果があるかどうかはどうでもよかったのである。実際、彼の主治医だった李志綏は、『毛沢東の私生活』という回想録のなかで、「漢方医療を奨励するべきだということは確信しているが、個人的には漢方を信用していない。私は漢方の治療は受けない」という毛自身の言葉を紹介している。』

『臨床試験の中核にあるのはごく簡単な考え方で、その起源は十三世紀にさかのぼる。ときの神聖ローマ皇帝フリードリヒ二世は、運動が食物の消化に及ぼす影響を調べるために、ある実験を行った。二人の騎士がまったく同じ食事をとったのち、一方は狩りに出かけ、他方はベッドでやすんだ。数時間後、二人の騎士は殺されて消化管が調べられた。その結果、ベッドで横になっていた騎士のほうが、消化が進んでいることがわかったのである。』
ひどい。

『近年もっとも成功した薬のひとつであるバイアグラは、もともとは狭心症の治療のために開発された薬だったが、臨床試験の段階で、狭心症の改善にはあまり効果がないことがわかった。ところが、研究者がさっさと臨床試験を切り上げて、未使用の錠剤を回収しようとしたところ、ボランティアで臨床試験に参加してくれた人たちが錠剤を返したがらなかった。不思議に思った研究者が聞き取り調査を行ったところ、バイアグラには予想もしなかったありがたい副作用があることが判明した。』
返したがらないか。そりゃそうか。

現代の薬は、臨床試験を重ねて、厳重な審査の上に発売に至ります。その重みを考えたら、仮に歴史があったとしても、代替医療と呼ばれるものに手を出すべきではないのでしょう。仮に歴史があるとしたって、その「歴史」の発端は、単なる誰かの思い付きだったりもしますし(ホメオパシーはその例)。


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