K.Maebashi's blog

最近の読書『貧困と脳 「働かない」のではなく「働けない」』


前々回の記事
https://kmaebashi.com/blog/kmaebashiblog/post/45
の最後で、別記事に回すことにした
『貧困と脳 「働かない」のではなく「働けない」』
について。

著者の鈴木大介さんの本は、私はKindleにある分は全部読んでいると思います。おそらく代表作は「最貧困女子」、その他「最貧困シングルマザー」あたりの、貧困ゆえにセックスワークに従事する人のルポをかつては書いておられました。
あるいは「老人喰い」のような、振り込め詐欺の組織を取材した本。いずれも社会の底辺というか、アウトローな世界を扱った本です。

その後、ご本人が脳梗塞を起こして、その体験を書いた本が「脳が壊れた」「脳は回復する」そして最新刊が『貧困と脳 「働かない」のではなく「働けない」』です。

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「最貧困女子」は、タイトルの通り貧困な女性を扱った本なのですが、登場する女性の生活の破綻具合はかなり常軌を逸しています。女なら体を売ればいくらでも稼げるだろう、と思う人もいるかもしれませんが、容姿とメンタルに恵まれた人ならともかく、この本に出てくる「最貧困女子」は、たいてい太っていたりメンタルも怪しかったりして、ついでに知的障害もあったりして、セックスワークでもまともには稼げないような人たちです。以下引用。

『あえて糾弾されることを覚悟で書きたい。知的障害を持つ女性の売春ワークについては前述した通りだが、彼女ら売春の中に埋没し続ける家出少女らもまた、そのほとんどが「三つの障害」=精神障害・発達障害・知的障害の当事者か、それを濃厚に感じさせるボーダーライン上にあった。障害という言葉がよろしくないなら、こう言い換えよう。彼女らは本当に、救いようがないほどに、面倒くさくて可愛らしくないのだ』

この時点で知的障害という言葉がすでに出ていますが、ご本人が脳梗塞発症後、「高次脳機能障害」になって、あらためてかつての取材相手のことを思い返すと、自分自身の症状に重なるところがある、ということに気付きます。

『なんと彼らの多くはたいていの場合、「支援しなければならない人たち」のようには見えないのだ。もう、まるで見えないし、全然可哀想にも見えない。
まず約束ごとを守らないし、自分でした約束を平気で忘れる。相手の立場になって人の気持ちを考えるという習慣がなく、自分勝手に見える。文句が多い。すぐ人のせいにする。人を信じず裏切る。話は分かりづらく、気が短く、言葉の代わりに暴力をコミュニケーションの手段にしがち。自己管理が苦手で落ち着きがなくて、だらしなく、不潔なケースもある。将来のために今すべきことはまず100%先送りにし、衝動的に今の享楽を優先する。』
「脳は回復する―高次脳機能障害からの脱出―」より。

でも、いざ自分が高次脳機能障害になってみると、約束を守ろうにも、短期記憶が持たないから、ちょっと探し物をしている間に時間が溶け去る、事前にネットで乗換案内を調べておいても目的の電車に間に合わない、そもそも約束の予定をメモに書くまで記憶が持たない、ややこしい資料も読めない。

「最貧困シングルマザー」には、あまりひどいので鈴木大介さんが生活保護の手続きを手伝ってやろうとした女性が出てきます。朝8時の待ち合わせに11時過ぎに現れ、資料はひとつも用意できず、結局保護を嫌がって拒絶されたりしていますが、その人が、本書では再登場しています。

『だがその後、一向に先行きの見えない生活の窮状を見かねて、もう一度生活保護申請の同行を提案した際、彼女はようやく吐露した。  曰く、資料を集められないのは、僕のした説明がよくわからなかった以上に、「資料集めのための資料」として事前に渡していた文書も、読んでも意味がわからなかったと言うのだ。 』

ぱっと目には知的障害があるようには見えない人の中にもそういう人が結構いて、はたから見たらだらしない、さぼっているようにしか見えない、というのは本人にとってはなかなかの絶望でしょう。この本の事例を見ると、そりゃ私だってだらしない、さぼっているようにしか見えない、と思うと思います。

怖いのは、子どもの頃からずっとこんな状態だったり、著者の鈴木大介さんのように脳梗塞のようなはっきりしたきっかけがあって「脳が壊れた」のではなく、ストレスとかでこういう状態になる人もかなりいるらしいということ。本書前半に出てくる「師岡瑞葉さん」は友人とデザイン事務所を企業して活躍していたのに、いつの間にかなぜか仕事中に頭が回らなくなり、あげくマンションのローンが払えなくなって住んでるマンションが競売に賭けられるというのに「重要・必ず開封してご確認ください」と書かれた封筒を開封もせずに放置してまずいことになっています。

そう思うと、他人ごとではないです。私も最近記憶力やばいしなあ(え? 酒やめろって?)。


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