K.Maebashi's blog

最近の読書「安楽死が合法の国で起こっていること」


いろいろ本も読んでいるのですがなかなかここで紹介する時間が取れません。
今回は、ちくま新書の「安楽死が合法の国で起こっていること」。

安楽死というと、「死にたいなら死なせてやればいいんじゃない?」ぐらいの雑な反応をする人もいますが、この本で取り上げられている事例を見ていくと、何であれそう簡単な話ではないことが分かります。

まずこの本では、序章で、尊厳死、安楽死の定義から入ります。「尊厳死」は『終末期の人に、それをやらなければ死に至ることが予想される治療や措置を、そうと知ったうえで差し控える(開始しない)、あるいは中止することによって患者を死なせることを指す。』これは今の日本でも普通に行われています。
安楽死はもっと積極的に死を引き起こす行為で、さらに分類すると患者の自殺を医師が幇助する「医師幇助自殺」と、医師が毒を注射したりする「積極的安楽死」に分けられるとのこと。安楽死が合法とよく言われるスイスなどでは、医師幇助自殺は容認されているが今でも積極的安楽死は今でも違法だそうです。

その上で、今、安楽死が合法の国で実際にどの程度の人が安楽死で死んでいるかというと、『オランダの安楽死者は2018年から毎年6126人(総死者数の4%)、6361人(4・2%)、6938人(4・3%)、2021年には7666人(4・5%)。2022年には前年から14%増の8720人(5・1%)だった。』とのこと。あとがきで最新データが補われていて、カナダのケベック州では『州全体の死者数に占める安楽死者数の割合が今年7%に至る(すでに昨年8%に迫っていたという情報もあります)見込み 』だそうです。「結構多いな」と私は思いますがどうでしょうか。5%とか7%とかだと、もう例外的な処置という感じではありません。

この本ではいろいろな安楽死の例が挙げられています。その中のひとつを引用すると、『1例目はソフィアという仮名で報じられた51歳の女性。化学物質過敏症(MCS)を患い、救世軍が運営するアパートに住んでいたが、コロナ禍で誰もが家にこもり始めると、換気口から入ってくるタバコやマリファナなどの煙が増え、症状が急速に悪化。カナダには障害のある人に安全で、家賃が手ごろな住まいを助成する福祉制度があるため、友人や支援者、医師らの力も借りて2年間も担当部局に訴え続けたが、かなわなかった。安楽死の要件が緩和されたため自分も対象になると考えて申請したところ、認められて22年2月にMAIDで死去。』(MAIDというのはカナダの安楽死制度です)。
この人の場合は、もともと生きるつもりはあって、ちゃんとした住居さえあれば死ななくてすんだ例でしょう。
他にも『イラク従軍時のPTSDの治療を希望して相談した元兵士が、対応した退役軍人省の職員からMAIDを持ち出されて激怒した』というような話も挙げられています。そんな気楽に安楽死を提案する医者がいるのも驚きですが、仮に本人が「もう死にたい」と言ったとしても、人の気分なんて浮き沈みはあるし言うことも変わるだろうし、上述のソフィアの例のように状況さえ変われば死ななくてよいケースもあるでしょう。そんな場合にあっさり殺してしまったら取り返しがつきません。

賛成反対はいろいろ意見はあるでしょうが、「死にたいなら死なせてやればいいんじゃない?」なんて雑な認識で済ませてよい話ではない、と思います。

本書のテーマはここに書ききれるような量ではないので、興味のある方は一読を勧めます。

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