読書記録ばかりですみませんが。
「落語横車」イラストレーター和田誠さんの本です。
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たぶん1980年に単行本が出て、1984年に文庫化された本です。なんでそんな古いのを今読んでるのかと言えば、先日再読した星新一の「あれこれ好奇心の中で取り上げられていたからです。以下、「あれこれ好奇心」より。
明快ではよろしくない例を、落語の分野でとりあげる。最近、和田誠さんの『落語横車』の文庫収録で、解説を書く機会に恵まれた。創作落語も入っていて、イラストレーターとちがった面の才能を示す、面白い内容。とくに巻頭のエッセー「時そばの時刻」は、和田さんならずとも「あ!」という新知識をもたらしてくれる。
くわしくは全文を引用しなければならず、そうもいかないが、九つと四つに、そうたいした時間のずれはないとの新発見である。時刻などどうでもよく、この話の解説 抜きで笑わせる迫力に、あらためて感心した。
「時そば」といえば有名な落語なので皆さんご存じでしょうが、以下は「落語横車」からの引用。
まず最初の男がそば屋でそばを食べてから、
「いくらだい?」
「十六文いただきます」
「小銭だからまちげえるといけねえや。手を出してくんねえ。勘定してわたすから」
「では、これへいただきます」
「いいかい、それ、ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ、いつつ、むっつ、ななつ、やっつ、何どきだい?」
「へえ、九つで」
「とお、十一、十二、十三、十四、十五、十六だ。あばよ」
と、こうなる。
これをかげで見ていた第二の男が、真似しようと思う。で、
「いくらだい」
「十六文でございます」
「小銭だから、まちげえるといけねえや。手を出してくんねえ。勘定してわたすから」
「へえ、これへいただきます」
「いいかい、ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ、いつつ、むっつ、ななつ、やっつ、いま何どきだい?」
「へえ、四つで」
「いつつ、むっつ、ななつ、やっつ……」
これがサゲである。
私は落語というと小学校(中学校だったか?)の図書室に落語の本が一式入って、「時そば」もそこで読んだのですが、「第二の男」はずいぶん早い時間にそばを食いに行ったんだなあ、と思ってた。当時読んだ本には、「第二の男」は昨晩うまくやった「第一の男」の真似を試したくてしょうがなくて早々に食べに行った、というような記述もあったような気がする。それにしたって、「四つ」が現在の時刻16:00だとすれば屋台のそば屋はまだ開いてなさそうだ。江戸時代の時刻の数え方が現在とは異なる、という知識はどこかでは仕入れたはずだが(一刻が約2時間とか日の出日没の時刻で一刻の長さが変わるとか)時そばの時刻についてはこの年まで疑問に思うことがなかった。
実態としては、以下のページの図がわかりやすい。
「江戸の時刻制度"不定時法"」
https://www.gakken.jp/kagakusouken/spread/oedo/03/kaisetsu1.html
時刻は「九つ」から「四つ」まで、約12時間かけて順次減っていって、「四つ」のあとは23:00頃にまた「九つ」になるらしい。だから「第二の男」は、日も沈まない16:00とかにいそいそとそば屋に出かけて行ったわけではなくて、もうちょっと、1~2時間遅れていけば損しなくて済んだわけだ。この年まで知らなかった、のはさておき疑問にすら思わなかったのは情けないことであるなあ。
この本は3部構成で、第1部がこの時そばの話のような落語に関するエッセイ、かと思ったら、最初の「時そばの時刻」以外は落語に関するエッセイというよりは落語家に関するエッセイで、小学校の図書館の知識しかない私にはちょっと辛かった。第2部は創作落語で、ここからは楽しく読めました。第3部はその創作落語を演じる会の話。
さておき、こういう古い本がKindleで一瞬で買って読めるのは嬉しいことではあるのですが、権利関係を調整するのが難しいのか、著者以外が書いた文章がばっさり削られていることがある。本書の第3部では、和田誠さんの創作落語を本職の噺家さんが演ずるにあたり、工夫して変更したらしい。
「荒海や」が最も演者の工夫が前面に出たものになった。原作は落語のために書いたものではないから、ぼく自身が落語に書き変えたものの、落語としては笑いの要素の少ない素材であったと思う。小朝さんはこの素材を換骨奪胎と言えるほどに仕立て直した。素材の「荒海や」と小朝の演じた「荒海や」の両方をここに載せたから、演者の工夫のあとがわかるだろう。
演者の工夫のあとがわかるかと思いきや、小朝さんが変更した方の話は載っていないのです。そういえば上にある通りこの文庫版の解説は星新一が書いたはずなのにそれも載ってない。
筒井康隆の「私設博物誌」で挿絵が消された恨みというものもあってですな。
なんとかならないんですかねこういうの。
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