最近「プロジェクト・ヘイル・メアリー」の映画をアマプラで観返したり、原作の9周目くらいを読んだりしたので気が付いた点を前回記事に追記。
<ネタバレ除けの空白>
ウインチ
つぎに考えたのは鎖を巻き上げる巨大なウインチをつくることだった。しかしロッキーに、長さ一〇キロの鎖を巻き上げられるほど巨大で頑丈なウインチをつくるのは絶対に無理だといわれてしまった。
ロッキーはひとつすばらしいアイディアを持っていた。サンプラーが自分で鎖を上ってくるというものだ。しかし何回か実験したあと、彼はこのアイディアを放棄した。リスクが大きすぎるということだった。
そこで……またべつの、この方法ということになったわけだ。
ロッキーが設計した特性ウインチをつかんでEVAスーツのツールベルトに取り付ける。
ウインチを作るのは絶対に無理だと言われたのに、数行後ではウインチを使おうとしている。
これはぶっちゃけ誤訳ですね。私は「プロジェクト・ヘイル・メアリー」の原書を買ったわけではありませんが、こっちに原文の引用がありました。
https://scifi.stackexchange.com/questions/305344/why-was-an-atmospheric-eva-necessary
The next idea I had was to make a huge spool that could winch up the chain. But Rocky informed me he’d never be able to make a spool big enough and strong enough to bring up the entire 10-kilometer length.
「huge spool」「never be able to make a spool」 とあるように、ここでロッキーが作れないと言っているのはスプールであってウインチではない。
spoolを辞書で引くと糸巻とか出てきますが、本書中にもすでに出ていて、鎖を500メートルずつ巻き取れるスプールを20個作って投下前の鎖はそこに巻いて保存している。で、巻き上げるときに、10km全部を巻き取れるでっかいスプールを作ることはできない、とロッキーは言っていて、そこで、ウインチで巻き取った鎖を1コマずつどんどん外して捨てていくという方法を取った。原文ならそれで意味が通じるけれど、訳文だと「ウインチ」が作れないと言っているので、10kmのキセノナイトの鎖ほどの重量を持ち上げるウインチが作れないと言っているように見える(少なくとも私はそう読んだ)。
どうもこの本の翻訳はいろいろ問題があるようで、こちらで解説されていました。
「プロジェクト・ヘイル・メアリー」の素晴らしくも誤訳まみれの翻訳
https://note.com/hiroshima_pot/n/n31eb44bb2719
「平均すれば三五〇〇人にひとりです」は私も気になってたんですよ。
ついでに言えば上で引用した『ロッキーが設計した特性ウインチ』はたぶん「特製」の誤字ですよね。
で、スプールは作れないけどウインチは作れるのなら、なぜそれをエイドリアン上空でわざわざEVAをして取り付けなければいけないのかという疑問がわく。スプールを船外に配置した時点で、その根元にあらかじめ付けておいて、船内から操作すればいいじゃん。巻き取るときも、何もぎりぎりまで巻き取ってサンプラーを外す必要もない。もともと、鎖を引っ張って推進するとサンプラーがエンジン後方に入って燃えてしまうというのが問題なんだから、エンジンよりも手前まで持ってくることさえできればよいわけでしょう。
エイドリアンには文明はなかったんですかね
で、鎖を伸ばしてタウメーバを採取している間中、ヘイル・メアリー号はエンジンを斜め下に向けて噴かして高度を保っている。そのために
IRで極端に熱せられた空気はイオン化し、文字通り真っ赤に燃え上がる。ぼくらの角度が上がるにつれて輝きはどんどん増していく。そして影響を受ける範囲がひろがっていく。一見の価値はあるだろうと思っていたが、まさかこれほどとは。ぼくらは大空に真っ赤な航跡を残して、空気中のものすべてを破壊していく。純粋な熱エネルギーによっておそらく二酸化炭素は微粒炭素と遊離酸素に引き裂かれてしまうだろう。酸素ももはやOを形成してはいられないかもしれない。とんでもない量の熱だ。
別のところの記述では『核爆弾が爆竹に見えるほどの火の玉』という記述もあります。
もしエイドリアンに文明があったら、この下で都市のひとつやふたつ滅んでいそうです。
エイドリアンには濃い二酸化炭素の大気があって、地表が見えない。ロッキーだって29気圧のアンモニアの世界に住んでいるのだから大気組成とかから「この星には文明があるはずがない」と断定はできないでしょう。ましてここはアストロファージとタウメーバの故郷であって、生命そのものはとうの昔に発生している。
ChatGPTに聞いてみたら、同じ疑問を持った人はいるようです。
Stupid question, what if Adrian had Intelligent life?
What is the orange fire ring in front of the ship in this scene?
下のリンクより。
The medieval era alien population of Adrian watching the sky burn and thinking it is the end times.
訳)
中世のエイドリアンに暮らす異星人たちは、空が燃え上がるのを見て、これが終末だと思っていた。
そういえば初代宇宙戦艦ヤマトでは、冥王星のガミラス基地を破壊しますが、冥王星のひとつやふたつ波動砲を使えば星ごと吹き飛ばせそうなところ、アメーバみたいな現住生物を守るために控えるんですよね。倫理的※1。
太陽の光量は100%には回復しないのでは
タウ星にはタウメーバがいてアストロファージを食いますが、だからといってすべてのアストロファージが食いつくされるわけではない。だからペトロヴァラインも残っているわけで。
そうなると、ソル太陽系の金星にタウメーバを撒いてもすべてのアストロファージを食いつくすわけではないので、太陽の光量は100%には回復しないのでは、と思えます(ある程度は改善するでしょうが)。タウ星は地球のアマチュア天文家の観測によれば光量が落ちてない、と言いますが、それはせいぜいここ数十年の観測であって、タウ星はアストロファージとタウメーバの故郷なんだから最初からアストロファージの数は平衡状態にあるはずで、タウメーバがあればどの程度までアストロファージを抑えられるかは未知数です。
でも、ラストでロッキーは、
「きみの星は最大輝度にもどったぞ!」
と言ってるんだよな。
これもChatGPTに聞いたのですがやっぱり同じ疑問を持った人はいるようです。
How did Sol return to 100% luminosity, question?
追記。エイドリアンでの冒険中のヘイル・メアリー号の角度について
まあこれは成立しないとすると物語が成り立たないのですが、
ヘイル・メアリー号を60度に傾けてスピンドライブを噴射したとして、秒速127mで水平に前進する状態で安定するとは思えないよね。1.5Gの推力のエンジンで1.4Gのエイドリアンの重力に対抗するならほぼ真下に向けないと足りないし、水平方向に0.75Gもの推力がかかっているなら水平方向の速度は一定にはならない。
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