たまってしまっているので読書記録が続きます。
検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?
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ネット(Twitterとか)を見ていると、時々「ナチスは良いこともした」と主張したがる人を見かけます。それに対する、ナチス研究者である著者のカウンターが本書です。以下、「おわりに」からの抜粋。
実は二〇二一年二月に、筆者(田野)にそのことを痛感させるような出来事があった。発端は本書の「はじめに」で触れた予備校講師のツイートであった。これを受けて、筆者が「三〇年くらいナチスを研究してるけどナチスの政策で肯定できるとこないっすよ」とツイートしたところ、これに膨大な数の批判が寄せられて「炎上」状態になったのである。
この本(の4章以降)では、「ナチスは良いこともした」という文脈で取り上げられがちな以下の話題について、
- 経済政策。アウトバーン建設とかで経済を回復させた。
- 労働政策。有給休暇を拡大して格安で旅行やレジャーを提供した。
- 家族政策。結婚したカップルに対する結婚資金貸付制度とかの少子化対策。
- 環境政策。動物愛護とか有機農法とか森林保護とか。
- 健康政策。禁酒禁煙がん撲滅とか。
以下の視点で検証しています。
- その政策がナチスのオリジナルな政策だったのか(歴史的経緯)
- その政策がナチ体制においてどのような目的を持っていたのか(歴史的文脈)
- その政策が「肯定的」な結果を生んだのか(歴史的結果)
でまあ、結論はと言えば、どれもナチスのオリジナルではなく、目的は戦争で、結果はどれも散々だった、ということになります。経済回復は無茶な軍需によるものだし、戦争が始まれば労働者は働かされるし、家族政策は『男性が外で働き、女性は家庭内で家事や子育てに専念するという「伝統的」家族観』に基づくものだったけれども結婚数が増えたが1家族当たりの子どもの数はむしろ減っているし、もちろん労働政策も家族政策もユダヤ人とかは対象外だし、動物屠殺の方法として『とくに「温血動物を屠殺する際には、失血の前に麻酔をしなければいけない」ことが定められた』りしたのだけれどもこれは単なる反ユダヤだし※1、環境政策も健康政策も実際のところ優先順位は高くなく、税金が取れるというので酒もタバコも売り続けた。大衆車として宣伝されて、これを買うために積み立てようと呼びかけられたフォルクスワーゲンは、『数十万もの人びとが積立金を支払い、巨大な生産工場が建設されたにもかかわらず、予約購入者に一台たりとも納車されないまま、開戦後に生産ラインが軍用車生産に切り替えられた。』。
まあ、政策の良し悪しにオリジナルかどうかはあまり関係ないし、たとえナチスがしたことでも「良いこと」はよいこととしてちゃんと評価すべきだ、と言いたい人もいるでしょう。実際『ナチスは「良いこと」もした』という主張をしたがる人は、自分は公正で客観的なものの見方をしているのだ、と思っているのでしょう。
それについて著者は「はじめに」でこう書いています。
善悪を持ち込まず、どのような時代にも適用できる無色透明な尺度によって、あたかも「神」の視点から超越的に叙述することが歴史学の使命だと誤解している向きは多い。端的に言ってそれは間違いだし、そもそも不可能である。
マンガを根拠に歴史を語ってもいかん。
- ※1以下引用。『ユダヤ教ではシェヒターという正当な屠殺手法が定められていた。鋭利な刃の欠けていない包丁(ハラフ)を用い、首を一気に切り裂いて血を抜いた肉が「清浄な肉」で、食べることを許されていた。』
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