「15パズルの作り方」

はじめに

15パズルと言えば、多くの人はそれが何であるか分かると思うが、 念のため説明すると、4×4の16のピースのうち1箇所が欠けていて、 その隙間に各ピースをスライドさせて数字を揃えるというパズルである。

15パズルの外観

高校生の頃、確か英語の宿題をやっていて、何の拍子か、ふと思ったのだ。

「あれ、自作できるんじゃなかろうか」

今となっては、何がきっかけでこういうことを考えたのか思い出す術もないが、 どうせ宿題をやっている時など、勉強に集中しているわけがないのだ。

森山塔がどこかに書いていたが、受験戦争は良いことだと思う。 若い頃に、あれだけ自由な思考に耽る時間が与えられることは、 人間の人格形成において大きくプラスになるのではないだろうか。

話が横道にそれてしまったが、とにかくそういうわけで、 私は宿題そっちのけで15パズルの設計/製作を開始し、 結局高校3年の頃から大学1年の始め頃にかけて、 数多くの15パズルを製作することになったのである。

私が作成した15パズルは、最初に作成したプロトタイプを除いて、 数字ではなく絵を揃えるものであった。

そのような15パズルの作り方について書いてみようと思う。

材料

必要な材料は以下の通り。

厚紙 原理的に言って、作りたい15パズルの4倍の面積があれば良い (実際にはロスが出るのでもう少し必要であるが)。
私は、レポート用紙を購入すると最後のページについてくる厚紙を愛用していた。 レポート用紙の表紙はまた別の利用価値がある。それについては後述。
イラスト 絵を揃える15パズルでは、当然イラストが必要である。 当時の私は、オリジナルはおろか模写も出来なかったので、 トレスしたり、NewTypeの付録のカセットレーバルを切り抜いたりしていた。
木工用ボンド この頃は、でっかい奴を買ってきて、小さいボトルに詰め替えて使っていたんだよな。 いまは、小さいボトルでさえ、何年もかけても使い切れない。
カッターナイフ 普通のもので良いが、刃を頻繁に折ること。
タミヤセメント 念のため言っておくが、コンクリートの親戚ではない。 プラモデル用の接着剤(セメダイン)である。
白紙 厚紙の表面を覆うために使用する。何でも良い。

構造

15パズルは、各ピースがばらばらにスライドするにも関わらず、 さかさまにして振ってもピースがこぼれることはない (売られている15パズルの中にさえ、たまにピースがこぼれるのがあったりするが) という、ちょっと考えると不思議な構造になっている。

知っている人も多いと思うが、ここで15パズルの構造を説明する。

ピース3面図

15パズルのひとつひとつのピースは、図のように 3枚の厚紙を少しずらして貼り合わせた構造になっている。 この、「ずれ」の凸部分が凹部分に入り込むので、逆さにして振っても ピースが落ちないのである。

私が作成した15パズルは、1ピースは20mm×20mmまたは15mm×15mmまたは 10mm×10mmであった。これら全てのサイズで、「ずれ」は2mmとした。 これらの値は、実際に作成する時は自由に決めて良いと思うが、 「ずれ」は、大き過ぎれば摩擦が増え、小さ過ぎれば万が一の場合に ピースがとれてしまう恐れがある。結局2mmぐらいがちょうど良いようである。

このようなピースを15個作成し、帯状の厚紙で作成した枠に入れれば 出来上がりである。

手順

15パズル作成の手順を以下に示す。

けがき

まず、厚紙上に先を鋭く尖らせた鉛筆(シャープ)で、けがきを行なう。

通常、シャープの芯は0.5mmであるが、これは、15パズル作成の上では あまりに太い。随時紙に擦りつけて、先端を常に限りなくシャープな状態に 保っておく必要がある。 また、誤差を最小限にするため、紙の大きさを最大限に生かし、 なるべく遠く離れた点を結ぶように定規を当てること。

これは考えれば分かることだが、例えば1ピース20mm角で 枠を含んだ全体が100mm角の場合、必要な部品は以下のようになる。

イラスト

イラストを表面に貼り付けるわけであるが、 15パズルの表面は必然的に指で擦られることになるので、 鉛筆書きのイラスト(貧乏だった高校生当時はスクリーントーンを 使うなど思いもよらず、鉛筆で陰影をつけていたのだ) をそのまま貼り付けたのでは、すぐに汚れてしまう。 そこで、コーティングが必要である。

最初はフィキサチーフを吹き付けたりしたのだが、 鉛筆書きのイラストではさすがに不安がある(実際には、 たいてい大丈夫なんだけど)。

そこで、コート液を吹き付けた後、木工用ボンドを全体に厚く均等に塗り付け、 完全に乾いた後で、さらにタミヤセメントを塗る。 もっとも、この方法は、当時の私が手元にある材料を使用して 工夫した方法であり、その気になれば専用のコート剤を使うなり シールを貼るなりの手はあると思うのだが。

なお、この作業は、イラストを厚紙に貼り付けてから行なうこと。 厚紙に貼ってから木工用ボンドを塗って乾かすわけだから、当然紙が反る。 乾いた後に16ピースに切り分けるわけであるが、 この、16ピースに分割してしまえば分からなくなってしまう程度の「反り」が、 ピースがスムーズにスライドするためのポイントになる。

ピースの作成

先に入れたけがき線をもとに、ピースを分割し、貼り合わせる。

ここはまさに精度が命である。ピースが軽く動くようにするためには、 極めて慎重な作業が要求される。

かつ、貼り合わせる前に、厚紙の角を爪でしごいて、 下図のようになるようにしておくこと。

ピースを横から見た図

これをやっておかないと、凸部分が凹部分にうまく入り込んでくれない。 紙をしごくだけだから、恒久的な効果を持つわけではないが、 うまく入らないのを無理に押し込むと、そこでまた紙がめくれ上がり、 相乗効果的に動かしにくくなってゆくので、やはり最初が肝心である。

また、貼り合わせる前に、4隅の面とりを行なっておく。 厚紙を積み重ねて、カッターでごりごり削れば簡単である。

これを2mmずつずらして貼り合わせるわけである。 一度は、2mmのけがき線なしでこの作業を行なうための補助具を考えて、 作成してみたのだが(下図)、結局この方法では 誤差が大きくなり過ぎ、使い物にならなかった。

補助具の図

先に述べたように、私は15パズルの材料として、レポート用紙 (当時はコクヨを使用)の台紙を愛用していた。 コクヨのレポート用紙の表紙はすべすべしているので、 これを裏返して台紙に貼り付ける。

片側が白いボール紙なら良いのだが、両面黒っぽい厚紙(再生紙?)の場合、 ざらざらしているので、厚紙同士を擦り合わせると大きな摩擦が発生する。 摩擦は表面積に比例するわけで、ここで台紙にすべすべした紙を貼ることを 怠ると、いくらピースを高い精度で作っても無駄である。

その台紙に、枠となる帯状の厚紙を貼ってゆく。 下図のように渦巻上に貼ってゆくと、 断層が出来ないので多少なりとも強度が増すのではないだろうか?

枠の制作手順

当たり前の話であるが、枠を最上段まで貼ってしまう前に、 ピースを入れること。

仕上げ

ピースを入れ、枠も完成したら、仕上げに入る。

まず、表面の飾りとして、白紙(なり何なり)を枠の部分に貼り付ける。

さて、ここまで、台紙の片側にぺたぺたと紙を貼り付けてきた。 実際に作業を行なえばわかるが、ここまで行なった時点でそろそろ 全体が反り始めている筈である。

そこで、木工用ボンドが乾いて、ほぼ完全に反り切ってしまった後で、 白紙にボンドを塗り、裏側に貼り付ける。 厚紙にボンドを塗り白紙を貼るのではなく、白紙の側にボンドを塗るので、 乾いた際の収縮率が大きい。こうしてバランスを取ることにより、 最終的にはまっすぐな15パズルが完成する筈である。

紙の反りについては、ここで述べた手順は私が専ら使用していた方法という だけに過ぎず、実際には臨機応変に対処するのが望ましいと思う。

おわりに

以上が、(ぱ)式15パズル製作法の全てである。 参考になっただろうか?(ならへんて)

この文章は、可能な限り正確に書いたつもりであるが、何分にも 私自身もう何年も15パズルを製作していないので、 多少は事実と異なる点もあるかも知れない。 万一、この文を読んで、「俺も作ってみよ」と考える奇特な人がいたとして (絶対にいないだろうな)、この文章の間違いにより 失敗することがあったとしても、御容赦願いたい。

15パズルひとつで大体4〜5時間ぐらいかかるだろうか。

いやもう、全くもって時間の無駄、森林資源の浪費である。 今回、このような文を書いたが、間違っても自分もやってみようなどと 思わない方が良い(誰もそんなこと思いやせんって)。

やっぱり、 「一度しかない自分だけの人生ですもの、1分だって無駄にしたくないわ」だよなあ。 時は止まってくれないものね。


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