「いつでもどこでもすぐには折れない究極の千羽鶴制作法」

はじめに

新井素子のエッセイに「いつでもどこでもすぐ折れる楽な千羽 鶴制作法」というのがある。

何年か前、それを読んだ時、思った。

「アホは俺だけじゃないんだなあ」

もとはといえば...

もとはといえば、大学2年ぐらいの時であったか、大学生協の方 の何かで、8月6日に広島に千羽鶴を持っていくからみんなで折ろう という話があったのだ。

それがきっかけで、以後、暇があれば鶴を折っている。 本を読む時など、鶴を折りながらでないと手元が寂しいのである。

学生のうちは、夏に広島に持っていってもらったりとか、 消費の当てもあったが、今はそういうこともない。 就職してからこっち、落ち着いて机に向かう時間が激減したので 鶴を折るペースもがくりと減ったとはいえ、 やはり鶴は増え続け、今ちょっと見た所によると、 机の回りに「折り鶴500羽」と書いた紙袋が五つほど転がっている状況である。

新井素子は3日で千羽鶴が折れるという。 しかし、私は、1羽折るのに4〜5分を要する。 その代わり、完成した鶴の美しさには少なからず自信を持っている。 ここでは、その鶴の折り方について書こうと思う。

用意するもの

鶴を折るのに必要なものは、折り紙・ピンセット・トレスボックス、 これだけあれば、シャープで美しい鶴を折ることが出来る。

折り紙は、私はトーヨーの75mm角のものを使用している。 大きささえ合っていればどれでもいいじゃないかと思う人もいるかも知れないが、 それは大甘の皇子という奴である。 折り紙は、ものによっては、正方形からかなりずれたものも存在する。 もっとも、同じメーカーでも当たり外れはあるが、 トーヨーの折り紙はどこでも手に入り、比較的品質が良い (ちょっと色落ちする傾向があるかな)。 「(ぱ)式 究極の千羽鶴制作法」では、正方形から1mmもずれると 致命的、それ以下なら、ずれを全体の歪みに吸収させる手段もあるが、 正方形に近いものの方が余計な気を使わなくて済むだけ楽である。

ピンセット・トレスボックスを何に使用するかはまた後で述べる。

折り方---菱形直前まで

折り方手順--その1

ではいよいよ折り方である。

通常の折り方では、最初に折り紙を三角に折ると思う。 しかし、その方法では、展開を片側ずつ行なうので、 一時的に左右非対象になり、最終的な鶴に「ねじれ」を与えることが多い。 そこで、「(ぱ)式 究極の千羽鶴制作法」では、1.のように四角に折り目をつける。

対角線の折り目は、1本だけつける。

最初に対角線から折り始める通常の折り方では、 過程において両方の対角線に折り目をつけてしまう。

しかし、完成した鶴を見ればわかるが、 対角線の片側(羽のセンターライン)の 折り目は最終的に機能していないのである。 最終的な完成品に余計な折り目をつけるのは、 「(ぱ)式 究極の千羽鶴制作法」のポリシーに反する。

しかも、通常の折り方では、片側だけ、 最終的な方向と逆向きに曲げられるのである。 これではそこから歪みが発生してしまう。

なお、折り紙を折る時は、必ず爪を使ってシャープに折ること。

折り目をもとに2.の形に変形させたら、次に必ず補助線 (と言うか、補助折り目)をつける(3.)。 新井素子のように補助線なしで折る人もいるが、 正確さをモットーとする「(ぱ)式 究極の千羽鶴制作法」では、 この補助線をつけないなど論外である。

さて、この、補助線をつける段階で問題が発生する。 1.の過程で、対角線の折り目を片側しかつけていないため、 補助線をつけるための目安になる線がないのである。

ここで、トレスボックスの出番である。 トレスボックスと聞いて何かわからない人のために 一応説明しておくと、絵をトレスする時に使う、 曇りガラスの下から蛍光灯で照らす道具である。 これで照らすと、中心線が透けて見えるので、それを目安に補助線をつける。

余談だが、私のトレスボックスは自作であり、 天板には白色アクリル板を使っている。 それで60cm×45cmの特大サイズなので、消しゴムをかけると結構ベコベコする。

ま、実際には、トレスボックスまでは使わずに、机の蛍光灯で 透かして済ませることも多いけど...

なお、折り紙には金や銀の紙がたいてい附属している。 そのような紙は、折り目がシャープにつくので失敗したら終りであるが 失敗しなければ折りやすい。 しかし、金銀の紙は、いくらトレスボックスを使用しても透けないので、 定規を当ててそれを目安にするしかないであろう。

ここで重大な注意がある。 折り目はシャープに、折る位置は正確にというのが 「(ぱ)式 究極の千羽鶴制作法」のモットーであるが、 例外的に、ここでの補助線は最初はゆるめにつける。 そして、補助線を折った後、4.のように合わせ目を少しずらす。 折り返した紙のうち、内側の紙はそのまま、外側の紙だけをずらすのである。 その後改めてシャープに折り目をつける。

どれくらいずらすかは、その人の折り方のシャープさによる。 シャープな人ほど少しで良い。 あまりシャープでない人でも1mmもずらせば充分である。

なぜこのようなことを行なうのかは、次節で述べる。

折り方---完成まで

折り方手順--その2

前節までの過程が終了したら、菱形に展開する。 4.において作ったずれは、菱形になった時は5.のようになっている筈である。 ずれのために多少紙にだぶつきが出来た筈だが、 それは中央の折り目に吸収させる。 その時、歪み(左右の非対称)もついでに補正しておくと良い。

次に、足を細くするため、下部を折る(6.)。 その際、折り込まれて内側にいく紙が、外側の紙とぴったりと貼りついたまま 折れるよう、ピンセットを使用して内側の紙をしごきながら折る。 ピンセットがなければ、つまようじか何かでも代用できる。

しかし、いくらピンセットを使用しても、紙には厚さがあるため、 2重になった紙を二つ折りにしたら内側の紙はどうしてもはみ出そうとする。 ここで、4.の過程で確保しておいたずれが役に立つ。 6.の過程を終了した時点で、5.で作ったずれが 半分ほど消費されるのが適当である。

また、6.の過程でも、完全に中央の線に揃えて折るのではなく、 4.で作ったずれと同じか、その半分ぐらい、隙間を残して折っておく。

最後に、中割り折りにより足を上に曲げると完成である(7.)。 普通の折り方だと、紙の厚みはないものとして折っているため、 ここで足がきれいにまとまらない(内側に折り込まれるべき紙が 外に飛び出す)が、 「(ぱ)式 究極の千羽鶴制作法」では、あらかじめその分の余裕を計算しながら 折っているため、足がシャープにまとまる筈である。

4.や6.の過程で、あまり大きくずれを作ると、 最終的に出来上がる足の先がシャープでなくなってしまう。 しかし、いずれにせよ鶴の足は少なからず厚みがあるのであるから、 完全な鋭角になることはありえない。 技術次第で途中で確保するずれを小さくすることが出来るので、 あとは練習あるのみである。

ところで、通常折り鶴というと、この後羽を展開し首を折り曲げる。 しかし、千羽鶴では、それは行なわないそうである。 何でも、羽を広げると、かさばって痛みやすくなるし、 「首を折る」のはお見舞等に持っていくには縁起が悪いから、ということらしい。

まとめ

下手な人が鶴を折ると、足の先から紙の裏側が白く覗いているものである。

「(ぱ)式 究極の千羽鶴制作法」は、そのようなことが起こらないよう、 私が長年かかって編み出した技法である。 参考になっただろうか?(ならへんて)

新井素子も、本を読みながら鶴を折るそうだが、 彼女は手元をほとんど見なくても鶴を折ることが出来る。 その気になれば、全く手元を見ないで、ポケットの中で片手で 鶴を折ることも出来るそうである。

私も、本を読みながら鶴を折ることが多い。 しかし、「(ぱ)式 究極の千羽鶴制作法」では、手元を見ないで折ることなど 不可能である。結果的に、本を読むスピードはだんだん鈍り、 しまいには鶴だけ折っているようになる。 だいたい、勉強のため、いやいや読まざるを得ない本の場合に、 鶴が折りたくなるのである。

最近では、デバッグの時に鶴を折ると言うパターンが増えた。 当然、プログラムは仕上がらず、ただひたすら鶴だけが積み上がっていく。

いやもう、全くもって時間の無駄、森林資源の浪費である。 今回、このような文を書いたが、間違っても「(ぱ)式 究極の千羽鶴制作法」を 習得しようなどと思わない方が良い(誰もそんなこと思いやせんって)。 新井素子も、 「こんな特技、習得しない方が、ぜえったい、自分の為だと思います」と 書いてるし。

やっぱり、 「一度しかない自分だけの人生ですもの、1分だって無駄にしたくないわ」だよなあ。 時は止まってくれないものね。

教訓:貴重な人生、無駄なことに時間を費やすのはやめよう。

ところで、これ、捨てるのも虚しいし、処理に困ってるんですよね...

折り鶴を数えるの図
深夜、折り鶴を数える(ぱ)

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