雑記帳

Winny擁護の論理はおかしい(2006/12/20)

Winny作者の金子氏に有罪判決が出た。

有罪判決やその量刑が妥当であるかどうかは、私は法律の専門家ではないので言及しないが、Winnyを作り、かつそれをあのような場所で公開したこと自体については、「それはいかんだろう」と私は思う。

しかし、予想はしていたことだが、今回の判決後、ネット上には多くの「Winny擁護説」が溢れかえった。そして、これまた予想できたことだが、その論理はやはり変だと思う。

この話で必ず出てくるのが「包丁のたとえ話」だ。今回もこの辺で持ち出されている。

http://www.nikkansports.com/general/f-gn-tp0-20061213-129875.html

積極的に意図をしていなくても、有罪というのであれば、包丁を売っている人が殺人に使うとは思ってなかったとしても、殺人に使う人がいたら、有罪ということになってしまうので、いまいち判断に苦しみます。

しかし、包丁は誰でも買えるが日本刀は(誰でも買えるとは言え)登録が必要だし、ロケット花火は小学生でも買えるがロケット弾なら持っているだけで銃刀法にひっかかる(多分)。アルコールは時として人生を狂わせる薬物だが、酒は売ってもよくて覚醒剤を売ったら捕まる。バールを売って、そのバールで自販機強盗した奴がいてもバールを売った人は罪に問われないだろうが、自販機強盗に極めて向いたバールをわざわざ開発していたらどうか。ピッキングツールは最近の法改正で売ってもいけないことになったんだっけ?

Winny以前に、P2Pファイル共有システムとしてWinMXが存在し、すでに著作権違反のファイル交換に盛大に使われ、逮捕者も出ていた。簡単に逮捕されたのは、WinMXでは、原理的にファイルの「放流元」が容易に特定できたためである。Winnyは、その「欠点」を解消し、途中に複数のPCを介在させ(これは障害対策や効率上の問題も大きいだろうが)、しかも途中のキャッシュや通信を「わざわざ」暗号化することで、ファイルの「放流元」をわかりにくくしたシステムだ。中継者も、自分が何を中継しているのかわからないので、著作権違反のファイルの中継に使われても罪に問われにくい仕様になっている。

これが著作権違反のファイル流通を目指したものではないとするのは、いくらなんでも無理があるだろう(しかも発表したのは2chのダウンロード板ですぜ)。

注意書きに、著作権違反のファイル交換には使わない旨書かれていたそうだが、こんなソフトにそんな注意書きがあっても普通従わないだろう。日本では、個人が勝手に酒を作ると違法だが、以前ビールの醸造キットが売られていたことがあって、その注意書きには「ここで砂糖を何グラム入れると本当にビールになってしまうから入れないでください」というようなことが書いてあったそうな。これ、本気で読者がそれに従うことを期待した注意書きに見えるか?

小飼弾氏のブログより: http://blog.livedoor.jp/dankogai/archives/50713129.html

さてと。これで京都府警は判決を勝ち取りました。次はどこでしょうか?まずGoogleあたりはいかがでしょうか。Google Cacheが著作権法違反でないとは言わせませんよ。少なくともgooglebotから、「あなたのWebページを複製してもよろしいでしょうか?」と聞かれた試しはありません。「無断リンク禁止」を呼びかける方は、是非京都府警に被害届を出していただきたく。もちろんYahoo!にもMSNにも。

当然ソーシャルブックマークを始めとするWeb 2.0な全ては被告候補。いや、潜在的にインターネットに接続しているハードウェアおよびソフトウェアのベンダーは、デジタル情報の閲覧というのはメモリーへの複製という事実がある限り全て被告候補です。ルーターとて、パケットをバッファーしている以上は例外ではありません。Ciscoさん、Are you ready?(←これも著作権法に抵触するのかしらん)

Google Cacheは著作権法違反かもしれないが(実際あれはかなり黒に近いグレーだと思うが)、誰も逮捕されていないし、それどころかあれを合法にするための法改正の動きすら(スピード感の話はともかく)存在するわけだ。ブラウザだってHTMLをキャッシュするし、ルータはパケットをキャッシュするが、MicrosoftもCiscoも捕まっていないし捕まえようとする動きもない。これらは合法的に利用するのが主目的であり、多くのユーザが合法的な使用法をしているからだろう。それに対し、Winnyは、建前はともかく、実際は違法ファイル交換専用のソフトとして開発されたのであり、だからこそ逮捕されたわけである。少なくとも現状では、(現実的に社会にもたらす利害という点において)司法は妥当な判断を下していると思う。

とはいうものの、現状では妥当な判断を下していても、判断が恣意的では困る、という意見はあるだろう。だから私は、最初に書いたとおり、この判決が法的に妥当かどうかの判断は避ける。しかし、「Winny開発は純粋な技術的見地から行ったもので、著作権侵害を増長させる意図はなかった」などという金子氏の言明を真に受けたふりをして(あなた、本当にそれ信じてますか?)Winnyを擁護するのはいかがなものか、と私は思う。

つか、今回の判決でこれはどうかと思うのは、Winny自体が「中立」とみなされたことなんだよね。P2Pは中立だと思うけど、Winnyは全然中立じゃないと思うんですが。



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